恋を、







 国道を越す信号の待ち時間は長い。
 一分経ち、巻島が片足だけ外していたクリートを両方外そうか迷い始める、信号待ちの時のことだった。

「巻ちゃん、いつも信号で停まる時に右足下ろすよな」

 右隣で同じように片足だけ地面に下ろして待っていた東堂が、信号待ちの暇つぶしなのか、ふとそんなことを言って来た。

「ん? そうでもねぇっショ」
「今日はずっと右足だ」
「そう……だったか?」

 言われてみて思い返すと、確かに左足をクリートから外した記憶がない。巻島は首を捻る。
 練習中もレース中も、それ以外でも、そんな癖は記憶していない。自覚がない無意識のものでもない。左足から先に下ろすことなど山ほどある。右足だけ地面に付け、わずかに右側へ傾いた姿勢で停車した巻島は、今日の東堂との個人練習中のことを思い返しているうちに、ふと、気がついた。

「そういうおめぇこそ左足下ろしてるっショ」
「え、そうだったか?」
「今日はずっと左足だぜ」
「ム、そう……だったかもしれんな。右を外した覚えがない」

 東堂も、さきほどの巻島と同じように怪訝そうに首を捻った。だが、すぐににやっと笑いだす。巻島がぞわっと嫌な予感を覚える、唐突な笑みだ。

「何ニヤニヤしてるショ」
「──お互い逆の足で下りてると、ちょっと巻ちゃんが近いな!」

 悪い予感は当たりやすい我が身を、巻島は血の気がのぼった頭で呪った。

「アホか東堂ォ!」
「ワッハッハ! アホではないな!」




    恋をしているだけだ!


2011.07.04.