手と手







 人の女に興味があるわけではない。だが、魅力的なラインの女性の横に男がいても、魅力的なものは魅力的だ。チラリと目線が行ってしまうのは健全なことだろう。
 それでどうと言うことではない。街中を歩いているときすれ違った相手を、ただ、見ただけだ。胸が大きくて腰がくびれている。へえ。その程度だ。一秒か二秒、その程度だ。
 その程度を、一緒に歩いていた東堂は気付いた。
「なんだ、巻ちゃん。オレたちも手でも繋ぐか?」
「いや違うショ、なんでそうなるんだよ」
 悪戯に細めた目で、身長差のぶん下の位置から東堂が巻島を見上げてくる。カチューシャで前髪を上げた東堂の額を小突きたい欲求をこらえながら思い返してみると、確かに男女のカップルは手を繋いでいた。恋人繋ぎと言う指を絡めたアレだ。
 話はそこで一旦終わった。街中をぶらつき、ファストフードでの昼食を済ませ、デパートの上にある本屋に新しいサイクル雑誌を眺めに行こうとエレベーターに乗る。そこで、話は無言で再開された。
 誰もいないエレベーターの中、東堂の指先が手に触れて来た時、やろうとしていることがなにか巻島にはわかった。そして、その手を振り払わなかった。

「……けっこう照れくさいな、巻ちゃん」
「……おめぇからやったんダロ」

 視線も合わせずに言い合う。
 手のひらにじわじわと汗がわいてくる気がして落ち着かない。グローブ越しに触れるハイタッチなどは何度もしたのに、直に触れ合った肌は急に生々しい。
 エレベーターが下りる階で止まり、ガクンと一瞬の浮遊感を味わうまで、巻島と東堂の手はしっかりと繋がれ、巻島は、そこから速くなっている脈が知られるのではないかと言うあからさまに考え過ぎな思考に捕われていた。


「今思い出したんだがな、巻ちゃん」
「ん?」
「エレベーターには監視カメラがついているかもしれん。……すまない」
「…………東堂ォ」






2011.06.16.