I love youを連打







『巻ちゃん』
 と、電話越しに聴く声は悪くない。
 たまに、いやに甘ったるく響く声で東堂は「巻ちゃん」と呼ぶ。ただ呼ぶ。
 ハイハイと適当に相手をする振りをしながら、巻島は帰り道をぶらぶら歩く。人通りの少ない裏道を選んで。
『巻ちゃん』
 ハイハイと適当に返事をする。
 聞いてる、と返してやると、ああ、と返って来る。
『巻ちゃん』
 巻島は知っている。好きだのなんだの甘ったるい言葉をまだ上手く扱えない自分たちにとって、東堂が自分を呼ぶこの声こそが愛の告白なのだと。
『巻ちゃん」
「だから聞いてるショ、東堂」
「──いつもそんなニヤニヤ聞いててくれたのか」
 は、として顔を上げると、すでに駅前に着いていて、そこには、携帯電話を耳にあてた東堂が、自分こそニヤニヤ笑って立っている。
「な……」
「巻ちゃん!」
「なんでいるっショ、おまえ! 平日だぞ」
「ハハハ、巻ちゃん! 巻ちゃん!!」
 詰め寄る勢いで駆け寄ると、東堂は、このうえなく幸せそうに巻島を呼んだ。
 巻島は知っている。好きだのなんだの甘ったるい言葉をまだ上手く扱えない自分たちにとって、東堂が自分を呼ぶこの声こそが愛の告白なのだと。
「巻ちゃん!!」
「聞いてるって言ってるショ、尽八ィ!」






2011.05.07.