おやすみ






 二人はベッドの上で、分厚く軽い羽毛布団を被って横になっていた。
 熱のある蘇芳は少し寒いようで、首どころか口元まで毛布に埋もれているが、悦史からすると少し暑い。肩まで毛布から出て、布団の上から蘇芳の背を撫でてやった。擦る動きに蘇芳は、ほう、と心地よさげな溜息を漏らす。
「あー、それ気持ちいい。肩とか肘とか背中とか痛いんだよなー、なんでだろ」
「熱のせいだろ。こうしててやるから動くな、バカ」
 馬鹿、の声に力がこもった。蘇芳は堪え性のある男なのであまり態度に出ていないが、八度は軽く越えているのだ。九度近い。そこまで堪えやがってと最初は心配の余りの苛立ち、その苛立ちを林檎にぶつけて磨り下ろしまくっていた悦史だが、「風邪引いても誰かがいてくれるって安心してんのかな、俺」と呟いた蘇芳の声に苛立ちは急速に萎む。
 その後は何ひとつ苛立つことなく、悦史は蘇芳の汗を拭いたり、額をアイスノンや冷えたタオルで冷やしたり、スポーツドリンクを飲ませたり、高熱過ぎて食欲のない蘇芳の口に磨り下ろした林檎やアイスを運んでやったりと、それはもうまめまめしく看病した。その甲斐あってか熱は八度半ばにまで下がり、「えつっさん、だっこ」などとニヤニヤ要求出来るまでに戻った。
「フヒヒ」
 悦史の胸元にぐいぐい顔を押し付けて、蘇芳が笑う。
「なんだよ気持ち悪ぃな」
「いやあ、たまーには風邪引くのも悪くないね。えつっさんがいるなら」
「おう……」
 家族。
 と、その言葉が悦史の脳裏に浮かんで、じわりと沁み、はっきりとした幸福になる。悦史は、反射的に蘇芳の熱い体を強く抱きこむ。
「……本当はちょっぴり運動して汗掻いて熱下げるなんて展開期待したんですけどね」
「うるせええええええ! 少し元気になったらすぐそれか! まだ体力ガタ落ちのくせにそんな真似したら悪化するだけだってくらい考えねえでもわかるんだよ、寝てろ、このバカ! 俺をどんな鬼畜だと思ってんだ!!」
「フヒヒ、サディスティック乙メンのえつっさんやーさしーいー」
 喚き散らす悦史の声を、胸に耳を宛てて聴きながら、蘇芳はずっとニヤニヤしていた。












2010.12.08.