グンナイすぐに明日が来る






※R18
R18ゲームのため、性描写はありませんが18才未満の閲覧はご遠慮下さい。

















 労働で疲労した体を引きずって、アパートの戸を開ける。中は小さな照明だけ点いていて、しんと静まり返っていた。
 帰宅した大成の装備は、すぐにシャツとトランクスまで防御が落ちる。スーツを着込んだままでなどいられない。息苦しいネクタイを解いて、脱いだスーツと一緒にハンガーにかけ、シャツは風呂に入るまで装備を解かずにとりあえず夕食を食べる事にする。ラップのかけたチャーハンが食卓にぽつんとあったので有り難く頂いた。
 嫁を貰ったにしては侘しい気もするが、幼馴染と同居と思えば上等過ぎるほどの夕飯を、音量を小さく絞ったテレビ相手に済ませる。風呂はうるさくならないように、シャワーはガンガン使いづらい。風呂の湯を桶で汲んで髪のシャンプーを流しながら、音の響かない上等なマンション住まいしてみてえ、などと将来の夢をひとつ設定した。二志にこれはちゃんとした大人の夢かどうかチェックして貰おう。セックスするのに息を潜めるのも結構大変なのだ。
 若いうちの苦労は買ってでもってこういう事かなと馬鹿馬鹿しい事を考えながら、汗と煙草臭さを落として風呂から上がる。
 装備をジャージとTシャツに変更し、ふすまを開けて狭い寝室へ入ると、暗がりの中で十一は眠っていた。
 大成の分まで布団を広げて、二人分の布団が並んでいるど真ん中にわざわざ眠っていた。布団と布団の間は寝心地の良い筈もないのにすやすやと穏やかな顔で穏やかな寝息を立てている。
 すぐにでも布団にダイブしたい気持ちでいる大成が、気持ち良さそうな顔で自分の布団まで占領している同居人を憎らしく思ってもまったくもって自分のせいではない。はずだ。

「じゅういち」

 精一杯の優しい声で呼ぶ。ささやかに部屋の空気を揺らした大成の声に、意外にも一度呼んだだけで十一は目を覚ました。うう、だか、ぐう、だか、喉に詰まったような低い返事が帰って来る。暗さにまだ目が馴染んでいないので、黒い塊が身じろいだだけにしか大成には見えないが。

「十一、ただいま」
「うー……ぁー、おー、ダァリンおかえり」
「十一、そっち」
「んー…?」

 半分寝てる声の十一の体を、大成は容赦なく足で蹴り転がした。うおう、と声を漏らした黒い塊はあっさり転がる。
 狭い部屋はすぐに壁が来て十一の体は行き場を失うが、そこは容赦なく追撃。空いたスペースにとっとと寝転がり、大成は自分の体で十一の体を押しやる。目覚め切っていない十一は、正面から壁に押し付けられてじたばたと緩慢に蠢いた。

「ちょ、大成、俺もう行けない、行けないよ」
「俺が寝れない、詰めて」
「いやん、無理やり入れるとナカいっぱいになっちゃうー」
「大丈夫、もう俺のでがばがばだから」

 緩慢な抵抗が急に止む。十一の背後からくっつくように押しやっていた大成を、十一は肩越しにのそのそと振り返った。

「お前最近ひどいよ?」
「そんなことないよ」
「なによ、愛がなくなったの?」
「そんなことないよ」

 同じ言葉で十一を受け流すと、大成は目を閉じる。目蓋に閉ざされて本当の暗闇が訪れる中、軽く唇を突き出す。

「ん」

 小さく声を漏らしながら大成は、促したつもりが催促になった気がした。微妙なニュアンスの違いでしかないが、こうすりゃいいのよーとふざけて言うのと、マジモンのおねだりくらいの差が大成にとっては存在する。ちょっと我ながら気持ち悪いと思っている間も、なぜか十一のリアクションはなかった。一人でふざけていても居心地が悪いだけだ。
 居心地の悪い中、ボケ続ける程、大成は心が強くはない。反応のない十一の様子を見るべく目を開くと、暗闇に慣れた大成の目には、困ったような笑い出すのをこらえているような十一の顔が映った。視界いっぱいの、見慣れた幼馴染の顔。うっすら欲情した、最近まで見た事のなかったツラ。

「……お前、最近ひどいよ?」

 ひそめた十一の声が妙に色っぽかった。そんな感想を大成が口にする前に、十一の唇が上唇を食むように挟んで来る。
 ちゅう、と音を立てて下唇に軽く吸い付いて返すと、十一の唇が笑いに震えてくすぐったい。両脇から十一の腕が絡みついて、ぎゅうぎゅうと引き寄せて来た。わざと苦しくさせる抱き方に大成は一瞬息を詰める。きゅっと閉じられた大成の唇を十一の舌が嘗めて来たので、息を逃がすのと同時に舌も出して嘗め返した。十一の息もひっそりと洩れて、唇の間で二人分の息が混じる。二酸化炭素。あと何だっけ。大成はぼんやりと呼気に含まれるものを思い出そうとしたが思い出せない。そして思い出せなくても支障はない。
 相手の吐いた二酸化炭素と、酸素も吸い込んでいると、何かが伝わった気になった。「そんなことないよ」の言葉を具体的にしなくても済むような何かが。

「便利だよなー」

 暫くただ舌を嘗めあってから、十一が言った。

「便利だなー」

 応じる言葉に続けて、おやすみ、と大成が言うと、あいよと十一から返事が返って来て腕が緩む。ほぼ同時に体を離して、仰向けになった。布団は二人分敷ける狭いなりにも充分な寝室で、体を休めるべく目を閉じる。
 なぜわざわざ布団の中央にお互い集まっているのか、投げ出した手の甲だけがくっついたまま退かそうとしないのか、二人とも指摘はしなかった。
 なんせ眠い。そして、考えなければならない事など他に山ほどあるのだ。







2009.11.21