恋がしたい恋がしたい恋がしたい






 恋がしたい。
 フットボールをしたいフットボールをしたいフットボールをしたいフットボールをしたい。

 世良の頭の中はこのくらいの割合だった。なので、堺を好きなのだと気付いた時も、まだ平静でいられた。
 ああ、好きなんだな。そっか。程度の平静さだった。常に思うのではなく、時折思い出す程度で、他は、フットボールのことで頭がいっぱいだった。八十パーセントはフットボールのことでいっぱいになっていて、二十パーセントが堺への恋心で占められている。

 ――それはもしかして、自分とって、物凄い惚れ方なんじゃないだろうか。

 気付いた時に、世良はあまりの事態にパニックを起こした。気付いたのが一人きりの部屋の布団の中で良かった。毛布を被ってごろごろじたばたしている姿など、人に見せたらどうかしたのかと思われてしまう。
 実際、どうかしていたのだが。





 人気のない公園のベンチで、二人並んで缶コーヒーを飲むのはデートと言うのだろう。だがそれは恋人同士であればの話で、世良は堺とそういう関係ではなかったから、今のこの状態は、同じチームの先輩後輩のコミュニケーションだ。
「おい、世良」
「ハイ」
「俺は、フットボールをやるために全力を尽くしてる。お前もだろ」
「あ、当たり前っスよ!」
「じゃあ、何で俺に好きだとか言うんだ?」
 責めるでなく、ただ純粋に疑問の浮かんだ顔で、堺は世良に尋ねた。
 なぜ世良が堺を好きだと言うのか、堺はわかっていない。なぜ様々な難関を乗り越えようと思うのか、わからない。それはそうだろうと世良自身思う。自分でも、思ってしまったのだからしょうがない、と感じている部分が殆ど全てだ。
「フットボールで、八十パーセントは満たされるっスね」
 フットボールをしたいフットボールをしたいフットボールをしたいフットボールをしたい。あの幸福感、充実感は、何にも代えられることがない。
 その感覚を思い出しながら、世良は言う。
「――二十パーセントが満たされないんスよ。だから、俺は、堺さんに好きって言っちまったんだ」
 フットボールが、世良にとって、堺にとっても一番だ。そのために日々を費やす。
 その日々の中、一度芽生えてしまってから消えないものに、世良は気付いてしまった。だから、しょうがない。恋の花のようなものが咲いて、それは胸の中、けして枯れる気配がなく、色鮮やかなのだ。
「フットボールが八十で、俺へのソレが二十か?」
 堺が視線を空へ向けながら暫く考え込むように沈黙し、その後、また尋ねて来た。
「っス」
「……とんでもねえな」
 堺の呆然とした声と、眉間に皺を寄せたこの上ないほど神妙な横顔に、世良は思わず笑ってしまった。
 その通り、とんでもないのだ。
 そうでなければ世良とて、伝えようなどとはしなかったのに。













2010.12.11.