朝××




 朝一番に見たものが、股間で揺れる黒髪と言うのは刺激が強い。強すぎてわけがわからない。
「っはぁ、う」
 洩れた声は思いがけずに高く、濡れて、甘かった。足立はぎゅっと目を瞑る。鼻に抜けた声が、寝起きで鈍った感覚では自分の声として上手く認識できない。他人の声のようだ。他人の口がはふはふと犬のような息をし、他人の声が悲鳴じみた喘ぎ声を上げている。
 瞼の裏に焼きついた、よく見知った上司の短い黒髪だけが、寝ぼけた足立の世界ではっきりと認識出来ている唯一だった。
「ん、んん、どうじ、堂島さ……」
 上司の名を呼んだ時の声が、一番掠れていて甘えを含んでいる。頭では他人のような声に冷静な判断を下しながら、体は足立の首筋までせり上がって来ている甘ったるい快感に素直に応じている。ぬるりと滑りの良いもので勃起した先から包み込まれ、弾力のあるものに先の窪みをくすぐられ、腰の奥からどろりと崩れて行くような錯覚がした。  もっと、と甘えきった声がねだっている。自分のものを包み込むあたたかい温んだ感触を、もっとくれと。閉じた瞼の裏側のせいで視界が真っ赤だ。寝ぼけた頭が余計にくらくらと揺れる。訳がわからなくなる。それから溢れる体液をざらついたものが嘗め取り、吸う。じゅっと濡れた音が立つ。気持ちいい。もっと擦ってくれと思う。気持ちがいい。頬肉に、口蓋に、擦り付けたい。欲求のままに腰を揺らすと堅い指先が腰骨を上から強く押さえつけて来た。温かい感触から、自分の膨れたそれがずるりと抜ける。
「っ、ぁあ、ン!」
 抗議のような、駄々をこねるような声が上がった。さすがにこれは自分の声だと認識したくもないと足立は思って、忘れる事にする。
 緊張した下腹を、撫でるように硬い細かい感触が擦って行った。髪だろうかと考えている暇もなく、角度のついた物の根元を吸われ、ぐずぐずに濡れているらしい下生えの中の皮膚にまで吸い付かれて腰が跳ねるのを、押さえ込む手に邪魔された。
 愛撫には、何かぬめる液体が使われているのだろうか。やけにぬるぬるとしていて、引っかかりのない感覚も気持ちいい。それとも、このぬるつきは自分と堂島の体液だけなのだろうか。どちらかと言えばその方が良い。何も邪魔なく、堂島と自分だけで、いられれば――うっすら目を開けると、自分の股間で堂島の顔が足立の顔を見つめていて、そして――








 朝の夢の最後に見たものが、股間で揺れる黒髪と言うのは刺激が強い。
 勢い良く飛び起きた視界に入ってきたのは、自分のパジャマに包まれた足と、白いシーツと、シーツの下で明らかに平常時ではない自身の有様だった。
「……死ねばいいのに」
 自分の声が泣きそうに掠れていたのは、寝起きの喉のせいだ。