'O sole mio!!









「よくできたな、アリーチェ」

 ふわふわとした金髪が青空に透けるのを見上げながら、俺に高く抱き上げられた天使の歓声を聞く。

 ──ずるいわ、あなた。私にもさせて。

 妻の笑い声が混ざって、俺の耳に天上のオーケストラのような心地よさを与える。
 俺はアリーチェを片腕に抱き直すと、屈みこんで、ねだって来たシャーリーンも反対の腕に抱き上げた。

 ──そうじゃないわ、ふざけないで。

 俺の悪戯を叱ろうとしても、つい笑ってしまう妻と。
 自分と母が同じようにされていることに喜ぶ娘と。
 俺といて二人が幸せなのだと疑うことすら考えなかった日々。








 ……目が覚めた。
 ひどい夢ではなかった。おそらく、十年前ならばひどい夢だと思い、朝から酒をあおっていたかもしれない。
 俺の隣にはカポであり、恋人でもあるジャンが眠っている。まだ目覚める時間ではない。鳥がようやくささやかに鳴き出した時間だ。
 俺は隣で眠る彼を起こさないように、そっとジャンの髪を撫でた。
 ぼんやり差し込む程度の朝陽の中、それはうつくしく、しっとりと輝いている。
「……ルキーノ?」
 髪の表面を撫でただけで、ジャンの乾いた唇が小さく動いた。
 ジャンは赤ん坊じみた熟睡もするくせに、こういうときは起きる。勘が良いのか、それともあるいは、俺は無意識に眼が覚めて欲しいと願って触れているのだろう。
 怖い夢を見て親を起こす子供のようだ。自覚はある。
「ジャン」
「ん」
ジャンは眠気の中、一生懸命相槌を打つ。その健気さに申し訳なさと、愛おしさが俺の中で入り混じる。
「なに……」
「おまえ、俺といて幸せか?」
「ンー? ……そりゃ」
 いまだ夢の中か、意識がきちんとあるのか、ジャンはふにゃりと力の抜けた、子供っぽい笑みを浮かべて……
「……たいへんよくできました」
 俺の頭を、撫でた。



2012.05.15.













「泣くなよう、ルキーノ」
「ハハ、カーヴォロ、泣いてねえさ」
 そう言ってルキーノは笑みを深めた。目じりに浮かぶ皺が深くなる。
 目が覚めたら。たいへんよくできました、と書いたシールを作ってやろう。
 俺と、しあわせになってくれてありがとう。って。
「泣くなよう、無理すんなってば」
「泣いてねえよ、こいつめ!」