夜明けに啼く、小夜啼鳥








 今日が少女の誕生日だと知ったのは去年の事だ。


 ルキーノのミス・アリスは、今年で何歳になったのか――いや、何歳にもならないのか。
 そんなことを考えながら、俺は、カポの執務室に切り花を飾る。

「花瓶と花が欲しい」

 そう言うと、ベルナルドは何も言わずにちょっとだけ目を細め、理由は聞かずに手配してくれた。

「どんな花を?」

 とだけ聞かれたから、俺は、アリーチェちゃんは何色が好きなのかと散々迷って、ルキーノの目の色のような、ローズピンクのバラを選ぶ。
 好きな色も知らない少女に、精一杯の贈り物を、と、俺は考える。


 どうかルキーノの記憶の中、永遠に花の様に微笑んでいてくれ。
 ルキーノの記憶に、笑顔を刻みこんでくれと願いながら。


 パパにその幸福をあげられんのは、やっぱりアリーチェちゃんと、シャーリーンさんだ。俺にその空白は埋められない。きっと、埋めようとするもんじゃ、ない。
 わかっていても、俺は座り心地のいいカポの椅子に座り込んで、机の上で頭を抱えた。



 ――そんなシリアスな気分をぶっとばしたのは、その「パパ」だった。



 扉を叩くノックの音は一回。「どうぞ」と応じる前に開かれたドアから、アリーチェちゃんのパパ……ルキーノはいかにも機嫌が良さそうな笑顔で、俺の執務室に入って来る。
 そして、チャオの挨拶も、前置きも何もなしに言った。

「ジャン! 旅行に行くぞ」
「……はぁ!?」

 思いがけないにも程がある台詞に、俺の声はひっくり返る。
 何でいきなり旅行? どこへ? 何か目的あるのけ? 目的はバカンス? っつーか俺、そんな旅行行くほど休みあったっけ?
 頭の中を疑問がぐるぐる巡る。驚く俺に対して、ルキーノは手に持っていたボストンバッグを俺の机の上にドンと置く。
 バッグとルキーノの顔を、俺は、頭を忙しなく上下させて見比べる。赤毛のライオンは、やっぱり上機嫌な笑顔を浮かべていた。

「もう支度は済んでるんだ。俺の選んだ服で構わんだろ? ほら、早くケツ上げろ、動け!」
「は、はあああぁあ!?」





2010.08.18.