All's Right with the World!



 片腕を枕に貸しているジャンの目が瞬かれ、目覚めの気配に、ルキーノは片手で読んでいた新聞を枕元へ置いた。蜂蜜色の、眠気にけぶったような目が、横に仰向けに寝そべっていたルキーノを見つめている。

「よう。お目覚めか、ラッキードッグ。まだ寝てるような目してるな」

 安い紙とインクで出来た新聞に触れていた指は、今はジャンの頬を柔らかく擽る。寝起きで薔薇色の差した頬を撫でると、ジャンは心地よさそうな顔で、ゆっくり垂れる蜂蜜のようなとろりとした速度で瞼をまた落とした。

「おい、また寝る気か? 本当に赤ん坊みたいに寝るな、お前は。……まあ、疲れさせたか……」

 自分が疲労の一端であることを思い出して、ルキーノは起こすことはせず、髪を撫でるだけにする。金髪がさらさらと指の間から零れ、窓から差し込む昼近い眩しい太陽に零れるような輝きを見せた。ルキーノは金の髪よりも、無防備な寝顔に、穏やかに見とれた。

「……ルキーノ」
「どうした、寝てて構わんぞ」
「あんた、起きてたん、……、……読みにかっ……だろ……」
「……ああ、新聞か? 読みにくくはないさ、こんなもんめくるくらい片手で足りる」

 起きるのか、と尋ねながら目元にかかった前髪を払ってやると、うう、と、イエスともノーともつかない返事がジャンから返る。ルキーノの眺めていた金色の睫毛が震えてから持ち上がり、起きるのだと言う答えになった。

「……んー、夢ぇ見てたあ……」

 殆ど寝ているような声でジャンは言う。そうか、と応じるルキーノの声に頷くジャンは小さく欠伸をし、枕にしていたルキーノの腕に額や鼻先を擦りつけ、微笑むように細められた瞳で見上げて来る。

「あんたがもうちょい、ガキでさあ……俺よりも。そんで俺があんたを、こうやって……」

 ジャンの手がルキーノの首に回り、頭を抱え込もうと引いた。寝起きの力はひどく弱いが、促されるようにしてルキーノはジャンの首元へ顔を寄せる。
 へへ、と満足そうに笑う様子はいつもよりもだいぶ子供っぽい。されるがままになってやろうと言う気持ちになったルキーノの体は、ジャンが引き寄せるままに動く。すっかり頭をジャンの両腕に抱え込まれたルキーノの額に、チュ、と音を立ててキスが落ちた。

「……可愛がってんだ。あんたが泣きそうで……俺はあんたが好きで、すーげぇ、大好きで、……泣かせたくなんか、一人で泣かせたくなんか、なくて」
「ジャン――」
「離さないようにこうやって抱いた……」

 まだジャンの声は、半分眠りの中にいるようだ。
 自分でも気付かなかった願望を見透かされた気持ちで、ルキーノはジャンの腕の中、硬直していた。信じられなかったが、その心地よさと安堵感は、認めざるを得ない。それと同時にルキーノは改めて思い知る。これはまさしく、恋だ。
 ルキーノは喉を震わせるだけの笑い方をし、それを認めた。








2010.03.02