「犬を飼いたいと思ったことはないか?」
「犬?
娘が大きくなって来たらそれもいいな、金色の毛並みがいい。
あんたは?どんな犬を飼いたい?」
「そうだな、
俺も金色の毛並みで……アイカラーはライトブラウンがいい、蜂蜜のようなやつが。
性格は、眩しいくらい明るいのがいい。
従順でなくていい。話を聞く耳を持っていてくれれば。
気ままでもいい。俺を忘れないでいてくれるなら。
大人しく寄り添うばかりは望まない。俺のところへ帰って来てくれると安心出来るなら」
そりゃ犬より猫を飼った方がいい、と俺はアドバイスをする。
「犬がいいんだ」と、男は言う。
「ルキーノ、俺はそんな犬を愛したくてね」
最近は次期カポに1番近いと噂されている幹部ナンバー2の男は、そう言って笑った。男は、随分と夢見がちなことを喋っている。今日はだいぶ酔っているらしい。
カポ・デル・サルトは年若い幹部二人の交流を深めろと言い残して他の幹部たちと呑みに行ってしまい、俺とベルナルドは、日ごろカポたちと行く場所よりもだいぶ気やすいバーに気やすい気持ちで来て呑んでいた。気やすい分、杯も重ねやすい。
「犬が、いいんだ……」
視線と物腰はしらふだが、ベルナルドは酔っ払いらしくとろんとした声で同じことを呟く。そこまで欲しいのなら、そんな犬を手に入れたらこいつは幸せになるんだろう。
こんなところでくだを巻くくらいなら探しに行きゃ良いんだ。
あんたの人生を楽しくするそのハッピードッグを。
2009.11.03