普段は非合法な取引に手を染めているがその実態は正義の味方!!



※戦隊パロ




 デイバンには、正義を守るヒーローがいる。



「ファック!」
 映画会社D・S・P敷地内にある大きな一棟の建物。偽装されており、けして表だってはいないが、マフィアグループの本部であるその地下には、更に隠された本部があった。ラッキー戦隊CR:5、五色の光を身にまとい、正義のために戦うグループの本部基地。
 たった今、Fワードが響き渡った部屋である。
「そういう発言はヒーロースーツを脱いでからにしろ、イヴァン! 変身中まで口汚いのはヒーローとしてマナー違反だ」
 広い円卓へ先に着いている四人のうち、赤いベルベット生地を張った豪奢な椅子に腰かけたルキーノが、眉をしかめながら小言を言った。イヴァンは舌うちしつつも首にあるロックボタンをオフにしてヘルメットを脱ぐ。不服そうながらも素直に従うのは、何だかんだ口は悪いが、イヴァンはヒーローとしてのけじめをつける方だからだ。正義の心の一環である。
 ばさりと汗が滴る短髪を揺らして素顔を晒し、首の反対側にあるヒーロースーツの解除ボタンを押すと、顎の裏から襟足までぴったり覆っていたブルーの生地は、急激に緩んで床へ落ちた。スーツを踏んで立つ、タンクトップに黒のスラックス姿の男は、ラッキーブルーの名残などないいつものイヴァン・フィオーレだ。
 イヴァンは自分用の、ヒーロースーツと同じくブルー系のデニム生地を張った椅子にどかりと勢いよく腰を下ろし、今度は素顔で「ファック」と唸った。睨みつける眼差しが円卓に沿ってぐるりと回る。
「ファックと言わなければ喋れないのか、イヴァン」
 静かに、低く告げるジュリオの座る椅子は、上品なスミレ色のレースで覆われている。下手に扱うとすぐに破れそうな繊細さだが、ジュリオはそこへいつも音もなく座った。「うるせえ」と唇を嫌そうに歪ませてイヴァンが唸る。
「これで五人揃いましたね、ボス……いや、リーダー?」
 イヴァンの不機嫌さに肩を竦めながら、ベルナルドはジャンにちらりと視線を向けた。座っている椅子は、アップルグリーンに染まった革張りだ。
「そんじゃあ、イヴァンちゃんのご帰還を祝して今日の反省会と行こうかね」
 ベルナルドにニヤリと笑って応じたCR:5のカポ、ラッキー戦隊のリーダーであるジャンカルロ──彼の座る椅子は、パイプ椅子である。
 会議室の用具入れにびっしり並んでいるようなよくあるパイプ椅子に腰かけてるジャンのヒーロースーツ姿を、ベルナルドは頭のてっぺんから爪先まで眺めて、パイプ椅子の貧弱さに苦笑いを浮かべた。
「ジャン、その椅子はそろそろ止めないかい……」
「だってこの方が移動しやすいだロ? ほーら、ダーリンの隣にもすぐだぜ」
 ガタゴトとパイプと床がぶつかる音を立てながら、腰を浮かせたジャンはパイプ椅子を引きずってベルナルドの隣まで移動する。ベルナルドは苦笑いの浮いていた口元をむずつかせて、ああ、だの、うん、だの、曖昧な相槌を打った。それを同意と取ったジャンは、またガタゴトと音を立てつつパイプ椅子を戻し、座り直すと、「さあて」と気を引く声を出す。
「あらためて、今日の反省会と行こうかね、諸君? まずはベルナルドから、なんかあるけ?」
「そうだな、今日はスムーズに人質の子供たちも保護出来たし、よかったんじゃないかい。お前たちは、何かあるか?」
「ないんじゃないか? 子供たちを心配するレディたちも全員怪我なく避難させたぜ」
「俺も……特にありません。GDのモンスターが巨大化する前に倒せましたし」
 とどめをさすときのジャンさん素敵でした、と頬を染めてはにかむジュリオは、ジャンが必殺技を出すタイムラグの間、モンスターが変身しないよう投げナイフで容赦なく地面に戒めていた。むしろ必殺技がなくても倒せていたのではと一瞬頭をよぎりつつ、ジャンは「おまいらの活躍のお蔭だって」と笑う。
「じゃー、今日の反省は特になーし。で、よごさんす?」
 ジャンは両の手のひらを上に向け、ぐるっと円卓に沿って視線をやる。もう解散にするかと問うその視線が止まったのは、バンッと音を立てて片手を卓へ叩き付けたイヴァンのところだ。イライラとしている様子が、眉間の皺でも引き結んだ唇でもわかる。
「あるだろうよ、反省点がよ!」
「はーい、イヴァンちゃんどうぞー」
「オメーら俺を置いて先に帰んな! 脱出に手間取っただろうが!」
「しょーがねえだろ、ガキどもがイヴァンちゃん御指名なんだから。脱出しなきゃいけないほどへばりつかれるなんて、モテるねえイヴァンちゃん」
「うるせえ! ファック!」
 ジャンの気楽な返しに吼えるイヴァンこと、ラッキーブルーは子供にモテる。
 デイバンで大流行中のラッキー戦隊トレーディングカード、売り上げ年代別・十歳未満の部でダントツの一位をキープするくらいだ。ちなみにカードの販売についてはCR:5の手のかかった会社が一枚噛んでおり、組の懐を円満に潤してくれている。
 今日も無事に平和を取り戻したデイバンシティで、ラッキーブルーの周囲に助けられた子供たちはまとわりつき、へばりつき、背中に登り……と周囲に微笑ましく見守られる光景だが、当人は体力の消耗も激しく、なかなか脱出出来ないと言う状況に陥っていた。毎度のことなので、ジャンたち他のラッキー戦隊メンバーは「おおい、先に帰ってるぞー」と声をかけただけで先に帰った。
 ラッキー戦隊は、ラッキーブルーに限らずモテる。
 正義の味方、つまりはヒーローなので、市民の味方だ。ファンが多い。
 今日も先述のイヴァンだけではなく、ジュリオの足元には破壊されたペットショップの店先から保護された犬猫たちがぴしりと行儀良く座っていたし、ルキーノの周囲では保護した可愛らしいレディたちが黄色い声を上げていたし、ベルナルドは妙齢のレディたちにうっとりと見つめられていた。
「……イヴァンちゃんとジュリオちゃんはわかるんだけどねえ」
 ジャンは頬杖をつきながら、ふむ、と思案するように首を傾げる。ちなみにジャンは四十代以上のファンを独占状態だった。市場での救出劇があると、あれを食べろこれを食べて行けとおっちゃんおばちゃんの世話焼きっぷりが凄い。
「なんでヘルメットしてんのにおまいらはレディたちに群がられるのけ?」
「そりゃあ、レディたちの審美眼が確かだってことだろ?」
 あの時はヘルメットの下に赤毛の伊達男を隠していたルキーノが、にやっと笑う唇に煙草を銜えて言う。その隣で、葉巻を口の端にベルナルドがフハハと笑った。
「日頃、一番レディたちの目を奪うジュリオに向かってはいなかったけどね」
 審美眼についてさりげなく大人気なく否定されて、ルキーノがムッとして煙草のフィルターに犬歯を食い込ませた。あれは犬猫にぎっしり慕われすぎて、人間が群がる隙がなかったとも言えるなあ、とジャンは状況を思い出しつつ、適当にウンウンと相槌を打つ。
「おや、ジャンは俺たちにモテてるだけじゃ不満か?」
 ふざけたトーンで肩を竦めてみせたベルナルドに、ルキーノも笑って乗ってきた。
「妬くなよ、ジャン。俺たちは正義の名の下よりうちのボスの名の下に集まってんだ」
「俺は、ジャンさんのために……戦いたい……」
 ジュリオに冗談の気配はないが、ジャンはそうかいそうかいと頷いてニヤついてみせながら、チラリとイヴァンを見る。目を瞬かせたイヴァンは、他の幹部からも注視されていることに気づくと、たじろいで椅子ごとやや後ろへ下がった。
「おい、イヴァン。お前はうちのリーダーになにかないのか?」
 あからさまに面白がった色を甘いローズピンクの瞳に浮かべて、ルキーノが指に挟んだ煙草でイヴァンを指す。イヴァンの目はまた瞬かれ、すぐにからかわれていることに気づいて激昂に染まる。
「うううううるせー! 俺まで混ぜんな!」
「あら、イヴァンちゃんだけつれないのねえ?」
「気持ち悪い声出すな!! ファーック!!!!」

 ラッキー戦隊CR:5。
 五色の光を身にまとい、正義のたあめに戦う彼らの日常は、おおむね平和である。





2013.03.17.春コミ