恋とも言えない






 刑務所を出る時にはわからなかった。デイバンへ戻ってからは、比較的早いうちに気がついた。自分ではそう思う。あいつの隣に立つ者が出来たのだと。ああ、そうか──と諦めが思ったよりずっとすとんと俺の中に入って来た。ジャンは笑っていた。幸せそうだった。俺はジャンの幸福を見て覚える俺の幸福を選んだのだ。ジャンの前向きなエネルギーは、やつの周辺にも影響を及ぼした。俺もそのうちのひとりだ。太陽の光にきらきらと眩しく光る金髪のように、明るく、俺の闇を照らしてくれる。もし彼の背に羽がついていたとしても、俺は驚かないだろう。三十も近くなった男に天使の羽の仮装が似合うなど、おかしな話だが、ジャンにならきっと良く似合う。俺は六つ年下の男に……正直に言おう、夢中だった。今だってそうだ。だが、昔は、今とは少し違う意味で夢中だった。甘く狂おしい気持ちで夢中になっている自分を抑えながら、過ごしていた。他の誰よりもあいつとの証を望んでいた。胸の奥にしまった感情が痛むたび、愛しい記憶は遠くなる。そうして俺は、少しずつお前への恋心を塗り潰して行く。すでにどんな感情だったか、記憶がおぼろげだ。俺はそうなることを望んで来た。秘密にすること。封じること。俺は、そうなることを望んで来た。ジャン。ジャンカルロ。我らがカポ、デル・モンテ。愛しい、俺の、ボス。俺は、お前の右腕になる。替えようのないものになる。それはとてもすばらしいことだ。そして俺は、お前を掴もうとすらしなかったこの両手で、CR:5を守るよ。むかし。腹の中で渦巻いていた熱情がいまはひどく遠く、懐かしい。あれを取り戻したいとは思わないが、それは、確かにそこにあったのだ。過去、ジャンを抱きしめて思う存分くちづけられたらと切望した時間が。俺はそれを忘れない。





2010.12.27