飛ぶ夢をしばらく見ない





※正月SSの弟ルキーノ×兄ジャン設定






 眠りに着く前に、俺は毎晩兄のことを思い返す。鼻先を埋めた髪の甘い匂い、軍人なのに日にあまり焼けないすべすべとした頬、俺と比べると一回りは小さな唇、頭を撫でてくれる指、掌。俺はそこまで夢想して、眠りに落ちる。掌にキスをする夢を見る。兄の金髪によく合う蜂蜜色の目は思い出さないようにしている。うっかり思い出したら、俺は夢精でもしかねない。だから掌まで。俺はジャン兄さんの夢を見る。


「現実だとしたら、なにをどこまでするんだ? ルキーノ」


 その夜も、掌にキスをした。そうしたらジャン兄さんは俺を欲深く贅沢にする呪文を唱える。
 目を開けると暗闇の中、兄が寝ている俺を見下ろして、微笑んでいた。
 蜂蜜色の目が俺を映す。生きて帰って来た。そう認識しながら息を吸うと、泣く時のように喉が引きつった。
 たまらなくなって、俺は兄さんの頭を掻き抱く。何度も思い返した甘い匂いに、僅かに混ざる硝煙の匂い。砂の埃っぽさ。見知らぬ煙草の香り。この家を出て帰って来るまでの兄の様子が、全てそこにあり、俺は、「兄が俺と離れていた時間」と言う姿もないものに対する燃えるような嫉妬を胸の奥に感じた。それと同時に、喉がゴクリと鳴ってしまう。
 俺の頭は、弟たちを起こさないように事に及ぶにはどうしたら良いかばかり考えていた。俺に自制と贅沢は敵の精神を教え込むのはいつも兄さんで、欲深く贅沢にするのも、いつもジャン兄さんなのだ。
 



2010.01.12