「ふぁ……ねみー。あんたも空気もあったけー。冬眠の春バージョン気分……」
「春は朝寝にも昼寝にもいい季節だね、ハニー。まあ、いつの季節もジャンとベッドの中で一緒にいるには良い季節だけど」





春を呑む







 一枚の毛布を二人でかぶるには、近づかなければならない。体が毛布の外にはみ出してしまう。春で、うららかな気候の日とは言え、裸で毛布もなしでは冷えてしまう。──そんな理由付けをして、顔も手足も寄せ合っている状態で、ベルナルドは眼鏡を外した顔で囁いた。
 ジャンはさらりと放たれた口説き文句に、うわー、と半分照れ隠し、四分の一は本気で退いてみせる。残り四分の一は、うっとりと囁くベルナルドの幸福そうな表情と同じ気分の自分に対して「うわー」と言いたくなった気持ちで出来ている。

「……あんた、ほんっとそういう台詞がよく出て来るよな。ダーリンのお口の中はどうなってるのかしら?」
「お前のココが知ってると思うけど?」

 意味深げな台詞と一緒に、ジャンの腰に絡んでいたベルナルドの腕が動く。
 下腹を大きな手のひらに擦られてジャンは身じろいだ。下生えの生え際を探るように、指先でかりかりと柔らかく引っかかれて、くすぐったいような性感に、おい、と笑い混じりにベルナルドを咎める。

「またか、トッツァンの下ネタ」
「スルーされなくて助かった。さっきずいぶん、よさそうだったし──」

 ベルナルドは親指の腹を使って、ジャンの脚の付け根をゆっくりと撫でる。「さっき」、その周辺をベルナルドが嘗めた時を模している動きだと、すぐにジャンは察した。察してしまい、ぞくんと腰が震える。ジャンは自身の反応を誤魔化すように大きく腕を動かし、ベルナルドの裸の肩をはたいてやった。

「っだから感想聞くなっつうの、その、恥ずかしいだろ」
「俺が言ってるだけだからジャンが恥ずかしがることはないさ。俺に咥えられてるお前は最高だった」
「それが恥ずかしいんだっつーの!」

 達して、息が整うまで抱き合って、風呂に入って、ベッドの中ですっかり落ち着いた状態で、正面からそんなうっとりとした顔で囁かれては、まともに受け取りづらい。気恥ずかしさにじとりとベルナルドを睨むと、ベルナルドはそんなジャンを見てふっと目を細めて笑い、肌をくすぐっていた指を一度退かす。
 そして今度は下肢の中心へ絡んで来た。

「ん……」

 さらりと乾き、萎えているものをベルナルドの指が根元からなぞる。ん、と洩れた声はベルナルドの口に吸い取られる。声はあいつの喉を通って胃に落ちて何かの栄養にでもなるんだろうか、とジャンが奇妙に逸れた思考をしているうちにも、ベルナルドの手はジャンのものをする、する、とあやすように優しく撫でる。実際はあやすどころではなく、微妙に強弱をつけたいやらしい手つきなのだが。
 じわり、と、体の芯が湿ってくるような錯覚がした。肌が奥底から火照り、湿り、ベルナルドの手のひらにジャンの熱を教えてしまう。

「……あったかいな、ジャン」

 不意にそう囁く男の声と表情が、いやらしいものではなく、ただジャンと自分の体に血がめぐり、生きていることを喜び、感謝しているように見えてしまって、ジャンは何も言わずにベルナルドの唇を自分の口で塞いだ。
 ジャン、と囁こうとした声が途中でジャンの口に吸い取られる。
 その声は喉を通り胃に落ち、共に生きていることの幸福さでジャンの体をあたためた。







2011.03.20