長針過ぎ行く深夜二時






 ジャンが正式にカポとなり、役員や他の組からの客人を集めたパーティーも恙無く終了した。
 これからは幹部順位からして、ベルナルドがジャンの右腕となり、ルキーノが左腕と言ったところだろう。

 そして、ジャンの心に沿うのはまた別の――どこかのだれか、だ。

 そのことをベルナルドは知っていたし、また、ルキーノも同じように知っていることを、知っていた。
 口に出さなくてもわかる程度には付き合いが長く、個人的な友人ではなくても仲間でありファミーリアだった。ベルナルドは、ルキーノの察しの良い性質を知っている。
 だから祝いの席の後に声をかけた。飲み直さないか、と。
 察しの良さを知っていて声をかけた。
 ルキーノはベルナルドの目をじっと見てから、何も気づかない顔をして、白雪姫にでも行くか、と頷いた。甘やかされている気はしなかった。彼も一人になる気分ではないのだろう。家へ帰ると、おそらく、家族のいない自宅を思い知らされる。家族がいた頃にボスだったアレッサンドロは、もう顧問と呼ばれるようになった。
 何もかもが変化して行く。
 今まで慕っていたボス・アレッサンドロはボスでなくなり。
 今まで弟分だったジャンは自分たちの上に立つ。
 よろこばしいことだった。
 過去に囚われていても時間は進み、世界は動いていく。そう、思い知らされる夜だった。

「あいつはいいカポになる。そうは思わないか、ルキーノ」
「途中で道を逸れるヤツはいくらでもいるぜ」
「思ってもいないくせに」
「当たり前だ。思っているヤツを俺たちのボスに認めるかよ」

 すでにブランデーのボトルが一本死んでいた。ウイスキーのボトルを店の奥から出して来たルキーノが、まだ少しブランデーの残るベルナルドのグラスに、中身を空けた。アルコールの香りが二種類混ざる。
 普段のルキーノならばしないような行動だった。酔っているのだろう。
 ベルナルドはルキーノのグラスへ自分のグラスの縁を当て、種類の混ざった酒で、乾杯をする。

「アッラサルーテ」
「ああ、我らがボスに」

 そう応じてグラスを当て返すルキーノの口に、お前が飲め、とベルナルドは酔っ払った頭で自分のグラスを押し付けた。グラスの縁を押し付けられたルキーノの唇が僅かにたわむ。
 それは視線だけで笑ったルキーノの手に浚われ、代わりにルキーノの手にあったグラスがベルナルドの手に押し付けられる。ルキーノは片方の肩を引き上げ、竦めながら、喉で笑った。

「おい、ベルナルド、ここにいるのはヤクザの組の幹部二人でも何でもないな。部下もいない、ただのバカな酔っ払いだ。GDの豚どもには聞かせられん、笑い話にもならんぞ」
「ただの人恋しい男が二人、か」
「たいそうしけた話だ」
「違いない」

 互いに一息で飲み干したグラスの酒は、アルコールと感傷で、喉と胸を切なく焼いた。







2010.05.19.