月曜の目覚めはぬくもりの中







 日曜日。ソロモン・グランディなら墓の中となるが、俺たちマフィアにとっては安息日だ。日も暮れ、少し早い夕食も済ませて、さて明日からまたお仕事、と私室のソファで背伸びをした時のことだった。二人がそれぞれ箱を手に、俺を訪ねて来たのは。
 大きな箱を持ったのはベルナルド、小さな箱を持ったのはルキーノ。リボンがかかって、どう見ても贈り物だ。部屋の中に招き入れると、客二人は俺をソファに座らせ、その左右にそれぞれ陣取る。

「ちょっとした贈り物があってね」

 右側に座ったベルナルドは、そう言って箱を差し出した。
 贈り物だと思った箱はやはり贈り物だった。開けてみておくれよ、とベルナルドに言われて、大きい方の箱を開くと、出て来たのは新しい真っ白のコンプレートだった。こっちもだ、と横から差し出された小さい箱の方にはピカピカの革靴──たぶんイタリア製、と目星をつける──は新品の艶やかな黒。
 明日は何かのパーティーだったか? と首を捻る俺に、幹部筆頭、次席の二人は、揃って微笑んだ。

「明日はバレンタインデイだろう?」
「サンタクロースのためにミルクを用意しないガキがいるか? お前にプレゼントくらいしてもいいだろ、ジャン」
「──待て、だいたい読めた気がする。良い予想と悪い予想、どっちから聞きたい?」
「良い方から頼むよ、ハニー」

 俺の襟足を指先に絡めながら、……さりげなく項を撫でながら……ベルナルドが俺の顔を覗き込む。コホン、と俺はわざとらしい咳払いをひとつ。

「良い予想は、幹部二人がかりで選んだっぽいステキなコンプレートと革靴を俺が貰うことです。悪い予想は、それを着た途端に二人がかりで引っぺがされるんじゃねーかってことです」
「ビンゴだ」

 ご褒美、とばかりにルキーノが音を立てて頬にキスをくれた。うむ、胸の奥がこそばゆい。至近距離のルキーノは、ちょっと首を傾げる。

「……で、どこが悪い予想なんだ?」
「長丁場ってわかってるからだ、よ!」

 俺は、即座に立って逃げようとした。だが、回り込まれるどころか二人分の長い腕にあっさり腰やら肩やら抱かれて、腰を上げたところですぐにソファに逆戻り。
 そして、ビンゴだった俺の予想通りのことになる。



 着ているところを見られるか、手ずから着せられるかと言う、「生きるか死ぬか」でなく「食われるか食われるか」の選択肢を向けられ、馬鹿野郎さんどもから逃れバスルームで着替えたコンプレートと革靴は、さすが、俺の体にぴったりだった。
 生地も革も上等で動きやすく、見事にサイズの合った服は気が引き締まる。まあ、すぐに脱がされるんですけど。
 今後、これを着て仕事やパーティーに出ることもあるだろうが、その時にこの後のことを思い出す羽目になるんだろう。と、鏡の前でつらつら先のことを考えていると、気の短い男どもが鍵をかけ忘れたバスルームのドアを開いて、俺にギャアと喚かせながらベッドへさらった。
 ちょっとばかり強引じゃねーのかよう、と睨みつけるが、二人とも嬉しそうな、甘ったるい優しい目で俺を見てくれてやがるので、勢いが殺がれる。そういう目すんのは程々で勘弁してくれ。溶ける。
 あと、前から後ろから二人がかりで、競い合うのか協力し合うのかわからねーような、とにかく目いっぱい俺をヨくしようとするのも程々で勘弁してくれ。溶ける。ぐにゃんぐにゃんになっちまう。でかい手が二人分、体中を撫でて行く。頭も、頬も、首も、肩も、腕も、胸も。隅々まで。奥の奥まで。
 服が全部ベッドの下に追いやられた頃、俺は、ルキーノに後ろから抱きかかえられ、ベルナルドに前から抱き寄せられているような状態で、すでに泣きを入れそうになっていた。

「い、いっぺんにやんなっての……!」
「しょうがないだろうが。俺に、お前とベルナルドがヤってるとこを鑑賞してろとでも?」
「俺は、ジャンがそういう趣向をお望みとあらば。ルキーノと寝てるとこを見ててあげてもいいけどね」
「そういう趣向があるのか、ベルナルド? あんた、マゾヒストだったのか」
「誤解があるようだね、ルキーノ。ここはひとつ、大人のたしなみと言って貰おう」
「俺はもっとストレートに楽しむ。このまえオーダーした、こいつにサイズぴったりのガーターだとか」
「たしなむな、ベルナルド! ストレートじゃねえだろ、ルキーノ! 口動かすか手動かすかどっちかにしろ、このエロ魔人ども!」
「ああ、そうだな……魔人らしく、お前の三つの願いを叶えてやろうか。マイ・ロード?」
「へ……?」

 笑みを含んだベルナルドの言葉にルキーノは、ああ、と何かを理解したようでニヤニヤと頷いている。おまいら、英語かイタリア語で話せ。エロ電波で語らうな。俺はちっともわからんわ。
 しかし、一秒後には理解した。

「口を動かして、」──ベルナルドが俺の鎖骨の上から、首筋へと嘗め上げる。

「手を動かす」──ルキーノが俺の内股のきわどい部分を、指先でくすぐる。

 ……叶えるってそういうことか、このやろう、と言いたかったのに、声は喘ぐ息に邪魔されて上手く音にならない。どっちかにしろって言ったから、一人ずつ、どっちかを担当したってか。

「三つの願いの、後のひとつはどうする?」

 耳元にルキーノの囁きが落ちた。内股をさすさすと撫でながら。

「っ、あんたは手担当じゃなかったのかよ、ルキーノ。お喋りかどっちかにしてちょうだい?」

 混じりそうになる吐息を殺し、つとめて演技ぶった俺の言葉にルキーノは声なく喉と肩を震わせて、表情を緩めて可笑しげに笑う。

「じゃあ俺が聞こうか。我らがご主人様、後のひとつの願い事はなんだい? 叶えてもランプの中に戻る気はないけどね」

 代わりに尋ねるベルナルドの声に、俺は少し考える。ほんの少しだけ。……浮かぶことが、ひとつだけだった。こいつらもアホだが、俺もじゅうぶんアホだ。

「────キス」

 ぶっきらぼうな声で言うと、人懐こい大型犬にじゃれつかれるような勢いで、二人分のキスに襲われた。






2011.02.13/LUCKY SHOT!!配布ペーパー